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岩手県立大学の課外ロシア語の取り組みについて

黒岩幸子

岩手県立大学(以下「県立大」と略す)のロシア語授業は,選択必修の第二外国語として2年次に通年30コマ,3年次に時由聴講科目としてさらに30コマが開講されているだけだ.そこで,課外でのロシア語学習を促し,ロシアを知る機会をつくるために,下記のような取り組みをしている.

1.ロシア語能力検定試験1

 100-120学習時間が要求されるТРКИ入門レベルの合格は難しいが,ロシア語能力検定委員会(東京ロシア語学院内)が実施しているロシア語能力検定試験4級は,継続履修した3年次生には合格の可能性がある.種々の語学検定試験受験料の半額を大学が補助する制度があるので,学生たちに勧めて,過去に4級,3級の合格者が出ている.2014年からは10月に行われる検定試験の会場を,岩手大学から引き継いで県立大が提供しており,青森,宮城など他県からも受験者が訪れている.

 4級の到達度は習得語彙約500語で,初歩の文法,露文和訳,和文露訳,朗読が出題される.受験希望者には,東京ロシア語学院が販売している回答例・CD付の過年度問題を教材にして準備を支援している.

2.日露青年交流事業の参加支援

 1998年の日ロ首脳会談で日ロ間の人的交流を抜本的に拡充することが合意され,翌年に政府間協定にもとづく国際機関として日露青年交流センター2が設立された.同センターの様々な交流事業の中には,大学生を対象としたロシア短期派遣プログラムもあり,公募があれば学生たちに勧めて,応募書類作成などの支援をしている.

 「学生リーダー・ロシア派遣プログラム」(2012年度),「モスクワ大学への日本人学生100名派遣プログラム」(2013年度)などが実施され,前者には県立大のボランティア・センターで震災復興のために活動していた学生が参加してモスクワ・ペテルブルグを訪問した.英語のディベート能力などの選考基準が高く,参加は難しいが,ロシアに関心を持つ契機として応募を支援している.

3.ロシアミッション学生交流事業への参加支援

 一般社団法人日本JC日ロ友好の会3は,日本青年会議所,日露青年交流センター,日本外務省の協力のもとに,将来の日ロ民間外交の人材育成を目的として, 1995年から毎年「ロシアミッション学生交流事業」を実施している.ロシアに関心を持つ大学生・大学院生を対象に募集・選考が行われ,全国から選ばれた15人が約1週間モスクワ・ペテルブルグを訪問して交流する.県立大の学生たちも,盛岡青年会議所の推薦を受けて参加した実績がある.近年は参加枠の確保が難しくなっているが,応募を勧めている.


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ロシアミッションでホームステイした友人宅で

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2012年ペテルブルグ留学時

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2012年ペテルブルグ留学時

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2014年ウラジオストク留学時

4.北方領土問題対策協会4の啓発事業への参加支援 

 独立行政法人北方領土問題対策協会は,青少年を対象にした領土問題啓発事業をいくつか継続実施しており,領土問題に関心のない学生に対しても,ロシアを知る契機として勧めている.北方領土返還要求運動岩手県民会議,岩手県政策地域部NPO・文化国際課および環境生活部若者女性協働推進室などが協力する事業もあり,枠が優先的に確保されることもある.参加実績のある事業としては次がある.

  a) 「北方領土ゼミナール」(毎年):内閣府,外務省,文部科学省の後援を受けて,北方領土返還要求運動の後継者育成を目的として,毎年9月に根室市で開かれる3泊4日のセミナー.全国から数十人の大学生が参加し,学識者の講義,元島民の講話,根室からの北方領土視察などを行う.


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ロシア語表記のある道路標識

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納沙布岬の北方領土返還記念碑

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納沙布岬から遠望する歯舞群島

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根室の土産店

 b) 「北方領土ビザなし交流」(毎年):色丹・国後・択捉島のロシア人島民と日本人の間で行われる無査証の相互訪問で,根室から船で出発し,3,4日かけて三島を訪問する.一般の大学生が参加できるクルーズは少ないが,後継者育成のための訪問団に参加した実績がある.

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幼稚園
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幼稚園
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宿泊施設「日本人とロシア人の友好の家」
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教会
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広場のレーニン像
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住民との交流で玉入れ競争
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住民との交流で玉入れ競争,見物にきた子供
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2011年,択捉島(紗那/クリリスク)
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2011年,択捉島(紗那/クリリスク)
日本人墓地
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2011年,択捉島(紗那/クリリスク)
日本時代に立てられた郵便局
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2011年,択捉島(紗那/クリリスク)
海の日のお祭り
 

北方領土に居住するロシア人を日本各地で受け入れて交流する,「北方四島交流受入事業」も毎年実施されている.2009年10月に国後・色丹島から45人が岩手県を訪問した際には,県立大が視察場所の一つとして訪問団を受け入れ,ロシア人団員と学生たちが交流した.

  c) 「北方領土青少年等現地視察団」(2013年):北海道東岸の北方領土隣接地(根室市,別海町,羅臼町,標津町,中標津町)を訪問して,北方領土を眺め,啓発施設を見学したり,元島民の体験談を聞いたりする.

  d) 「戦後70年北方領土問題を考える集い」:(2015年)根室および北方領土隣接地に全国から約120人の大学生が集まり,ゼミナールと集いが実施された.

 

5.その他

 上記2~4で紹介した事業は,いずれも参加費用がすべて支給され,学生の経済的な負担はほとんどない.ロシアへの留学や旅行は,生のロシア語に触れるもっとも効果的な機会だが,費用がかさみ,希望する学生もほとんどいないために現在,ロシアの教育機関との提携は検討していない.JIC国際親善交流センターの研修や留学案内を掲示するに留めている. 

 岩手県では国際交流への関心が薄く,旧ソ連領のクライペダ市(リトアニア)と久慈市が姉妹都市提携しているだけで,ロシアとの姉妹都市交流はない.それでも,「日ロ協会岩手県センター」が実施するコンサートやロシア料理教室の紹介,ロシア専修コースを持ち,ロシア人留学生もいる岩手大学のイベントの紹介など,地元のロシア関連の催しは学生たちに紹介している. 

 また,学内図書館にある語学自習室は,平日の9時-21時に使用でき,各言語の参考書,映画DVDの他に,ロシア語トレーニングソフトRosetta Stoneなどがそろっているので,利用を勧めている.

 ロシアとはあまり交流のない地方大学という環境だが,ロシアに関心を持つ学生たちはわずかながら育っている.留学やロシア語学習に拘らず,ロシアに触れる機会があればどのようなものであれ,紹介するよう努めている.